平成27年1月22日、経済産業省が再生可能エネルギーの固定価格買取制度の見直しに向けた一連の法令改正を断行した。一口に再生可能エネルギーといっても実際のところ、圧倒的リードで太陽光発電の導入が進み、その遥か後ろでバイオマス発電が事業として立ち上がり始め、入念な権利調整が必要な中小水力発電や地熱発電は漸く動きが表面化して来た、という状況である。
今回の経済産業省の改正の内容は多岐にわたるが、結論から言えば前述の状況を踏まえて、メガソーラーバブルの火消し、蓄電池社会への以降、電源間のバランス調整などに向けた経済産業省の強い覚悟が伺えるものとなっている。
総じて我が国のこれまでの再生可能エネルギーの導入政策は、技術がありながら先進国の中で導入が出遅れ気味であった我が国の状況を覆すべく、再生可能エネルギー発の電気を供給する事業者(以下「再エネ供給事業者」)に「権利」のみを与え「義務」をほとんど課さないものであったが、今回の改正で権利と義務のバランスがかなり取られることとなった。
今回の改正の重きは「優遇により進みすぎた太陽光発電の導入の是正」というところに重きが置かれ大きく、①メガソーラーバブルの火消し、①家庭向け太陽光発電出力制御の拡大と蓄電池の位置づけの明確化、③再エネ電源間の調整ルール策定、の3点となった。それぞれ詳細を見ていきたい。
(1)メガソーラーバブルの火消し
まずメガソーラーバブルの構造について説明したい。我が国のここ2年のメガソーラーバブルは、世界最高水準の買取価格と売電権利の流動化、という2つの条件がそろって生じたことだった。買取価格については平成24年度の買取価格が40円、平成25年度の買取価格が36円、平成26年度の買取価格が32円と徐々に下げられて来たが
固定価格買取制度はその名の通り「年度ごとに固定した価格」で「電力を買い取る」、という制度なのだが、その価格は経済産業省が再エネ供給事業者の発電設備を認定した時点か、再エネ供給事業者が電力会社に自社の発電設備の電力系統網に接続する契約(「接続契約」)を申し込んだ時点、のいずれか遅い方の時点で決定するとされていた。
ややわかりにくいので具体的な例を挙げる。経済産業省は平成25年度の売電価格を36円、平成26年度の売電価格を32円と設定している。このとき再エネ供給事業者が、平成26年3月に経済産業省から発電設備の認定を受け、平成26年5月に電力会社に接続契約を申し込んだとする。するとこの二つの時点の「いずれか遅い方」の時点での価格が売電価格として認定されるので、平成26年5月を基準に32円が売電価格として適用されることになるというわけだ。
なお経済産業省は発電設備に関して、所有者、場所、出力、使用する太陽光発電モジュールの種類や変換効率やメーカー、などを認定するのだが、認定基準が緩く、また後から簡単な手続きで変更できる「軽微変更」と呼ばれる項目も多かったので、「いずれか遅い方」といっても、現実には再エネ供給事業者は「とりあえず経済産業省の認定を取って、電力会社と接続契約に向けた調整を始め、最終的に軽微変更の手続きを取る」という行動をとっていた。
(http://www.meti.go.jp/committee/sougouenergy/shoene_shinene/shin_ene/pdf/007_02_00.pdf)
先日の記事(http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/42599?page=4)でも指摘したが、こうした制度は結果的に太陽光発電の転売市場を活性化してバブルを巻き起こすこととなった。大きなポイントとなったのは売電価格の決定が「接続契約を申し込んだ時点」であって、「接続契約を締結した時点」ではないというところである。経済産業省の認定を取って電力会社に接続契約を申し込みさえすれば、実際にお金を払って契約を締結しなくとも高価格での売電権利を確保できたので、この売電権利が取引の対象となった。このような売電権利の転売市場が発生するのは経済産業省の想定の範囲だったと見られ、当初は転売市場の活性化は太陽光発電の普及に貢献する正の側面が大きく黙認を続けてきた。各地で不動産業者やデベロッパーが太陽光発電の売電権利を確保し、それを企業や資本家が買い取って軽微変更を加えて自社仕様にして、金融機関が資金を提供して開発するというようなエコシステムが生まれた。
具体的な数値を上げると、40円時代の売電権利は1MWあたり2000万円、36円時代の売電権利は1MWあたり1000万円程度が取引の相場で、これに加えて1haあたり200万円~100万円/年の土地の賃料が20年入るという具合だ。大体1MWの開発には1.5ha程度の平地が必要なので、36円の売電権利なら1MWあたり総額4000万~7000万円、40円の売電権利なら5000~8000万円の収入が入るという具合だ。一方の元手はせいぜい数百万円なので、売電権利の転売は破格においしい商売だった。
(参考:http://www.jetro.go.jp/ttppoas/anken/0001137000/1137575_j.html)
しかし太陽光発電が増えてきて電力系統の接続枠が逼迫してくるようになると、売電権利と接続枠を確保して高値で売ることを狙い抱え込み、自社では事業を進展する気がない権利者による「空押さえ」が問題化することになった。こうした事態を受け今回の改正で経済産業省はこうした転売をしにくくする方向に大きく舵を切った。
具体的には
(1) 太陽光発電に適用される調達価格の適正化
(2) 接続枠を確保したまま事業を開始しない「空押さえ」の防止
(2)出力制御の拡大と蓄電池の位置づけの明確化
これまで再生可能エネルギー発の電気を供給する事業者(以下「再エネ供給事業者」)が、500kw以上の太陽光発電又は風力発電設備を電力系統に接続するためには、その条件として電力会社が年間30日まで無補償で発電設備の出力を制御する権利を認める必要があった。つまり年間30日まで電力会社は、再エネ供給事業者からの電気を買わないことができるということである。
しかしこれはあくまで原則であって、世の中には「例外」もある。経済産業省から特別に「追加的な再生可能エネルギーの導入には更なる出力制御が必要」と指定された電気事業者(「指定電気事業者」)は、その指定された日以降に自社の発電設備の接続を希望する再エネ供給事業者に対しては30日を超えて無補償で出力制御することが認められている。
「指定電気事業者」の管轄区域では、せっかく発電しても大量に出力制御されてしまうため事業の採算性が大きく落ちてしまう。特に自家消費が無く専ら売電収入を狙うメガソーラー事業にとっては致命的な影響が出るので、再エネ供給事業者にとってこの「指定」は一種の死刑宣告に近い響きとなる。しかしながら昨年来、北海道電力、東北電力、北陸電力、四国電力、中国電力、九州電力、沖縄電力、が「指定電気事業者」として指定されたので、事実上メガソーラーの新規案件の組成が可能なのは、東京電力、近畿電力、中部電力、という大都市圏のみという状況になっていた。実態は「例外」がむしろ「原則」となりつつある。
こうした状況の中で経済産業省は、出力制御の拡大し、今回の改正により以下のような変更が加えられた
① 出力制御を500kw以下にまで適用して、全ての太陽光・風力発電所にまで拡大することとした
② 太陽光発電・風力発電に関する無補償の出力制御期間を「30日」から「360時間」と、時間単位に変更し、事業者に遠隔出力制御システムの設置を義務づけた。また指定電力事業者に関しても日単位から時間単位での出力制御の運用を変更することを義務付けた
一方で再エネ供給事業者が蓄電池に電力をためることで出力制御を回避できることを明確にした。
(3)バイオマス発電の調整電源としての活用を明確化
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